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黄昏シリーズ

バカとピエロとホームレス・前

 ←あけましておめでとう2014 →暇をくれ
 函部信明、高一、十五歳。今年の春に、関西全土から生徒が集まるこの学園に高校から編入―――して早二ヵ月。
 学校生活はいつも通り穏やかだ。別に面白いイベントは起こらないし、迷惑なトラブルが起こるわけでもない。まあ全体的に賢い奴らが集まっているから当然といえば当然か。でもそれが無難で一番だ。
 放課後、今日も無事に全ても授業を終え、俺は敷地内をフラついていた。教室でちょっと残るお供にジュースでも買うとするか。向かう先を自販機に定め、校舎裏の近道を軽い足取りで進む。
 こういう時、俺は何も考えてない。ていうか大して何も考えてない。ま、考えてたとしても、自販機に着いたら何を買おうかぐらい。
 校舎と校舎の間にある、小ぢんまりとした広場にさしかかった時もそんな感じ、だから、
「てめーか。」
「…え?」

 いきなり飛んできた蹴りは青天の霹靂だった。

 バカとピエロとホームレス・前


(2010年製作・文芸部誌「Dolce」収録作品 2014年修正及び再編集)

「なななな、何だ―――ッ!?」
 慌ててかわすが、あまりの威力に、かすめた制服のボタンがとんだ。飛び蹴りを繰り出してきた相手は勢いあまって向こうに飛び出したが、そのままズザッと振る向きながら見事に着地した。鋭い眼光が刺さる。
 そいつは隣のクラスの女子だった。名前は…
「おまっ、…確か朝巳?だっけか。いきなり何すんだ!?」
 他のクラスの人間の顔と名前を、まだ完全に覚え切れていない俺だったが、彼女の〝アザミ〟という珍しい姓氏は、変に印象に残っていた。
 だが、この奇襲は何だってんだ!!
「…てめーか…ふざけた真似してくれんじゃねーよ…。」
 朝巳は尚も負のオーラをまといながら、じわりじわりと近付いてくる。
「え!?ちょっと待て…俺何かした!?」
 俺も慌てて後ずさりする。わけのわからないままボコられるなんて、たまったもんじゃない。けど逃げ出したいのに逃げ出せない。
「何かしたか、だと?」
 ゆらり、と朝巳は立ち止まる。その問いに、俺は何度も首を縦にブンブンと振った。何か知らんが誤解がある。はっきりさせて早く帰してくれ。
 だが朝巳はその場に立ったまま、フッと口端だけで笑った。
「―――笑わせる。」
「…え…。」
「この俺に果たし状を送りつけておいて、さらにはその場でシラを切るとはいい度胸だぁぁぁ―――!!」
 次の瞬間、問答無用で矢継ぎ早に集中攻撃が繰り出されてきた。そのすさまじさに口を挟むヒマもない。反撃なんて、もちろんできない。
「えっ!?だからッ!落ち着けッ俺は何もッ…!!
うぼぁぁぁぁ―――――――ッッ!!」
 放課後の校舎裏に、俺の断末魔が木霊した。
 そして、

 少し遅れて、クラスメイトの麻野がやってきた時、俺はもう屍だった。

「ご愁傷様です…。」
「勝手に殺すな!」
 真剣な表情で手を合わせる藺田へ、俺は実に心のこもったツッコミを贈った。おいおいこの程度で死亡なんて勘弁してくれよ。まだ人並みの青春も味わってねぇのにさあ。
「一年Ⅲ組出席番号一番・朝巳理奈。僕ら内部の生徒達には有名だよ。中三の時、一介の生徒会会計にして、理事長の汚職を暴いたことがあってさ。そうでなくても、あの少々ケンカっ早いが竹を割ったような性格と、女子の中でも五本の指に入ると言われる容姿で、密かにファンクラブもあるって噂だよ。…その朝巳さんが何で函部君を襲撃したわけ?」
「それがわかんねぇんだよなぁ―――麻野…?」
 俺は、あちこちにできた青アザをさすりながら、机の向こうで黙殺している麻野の方へ振り返った。向こうを向いたままの麻野はびくりと肩を震わせた。
「何だって果たし状なんざ送り付けた!?おかげで俺は、通りすがりの男前から瞬時に通りすがりのボロ雑巾に…。」
「函部君、君の最初は男前じゃなくて多分ただの小僧だよ。」
「うるせぇよ!何が悲しゅーてジュース買いに行く途中、半殺しにされにゃならんのじゃ!どーして、ンなマネを…」
「果たし状じゃない!」
 麻野はいきなり立ち上がるち、振り返り、腕を組み胸を張って言い発った。
「…。」
「…じゃあ何だよ。何を送ってあの反応だよ。」
 俺の問いに、麻野はうつむいてぷるぷると震えた。麻野は、普段は気が強く元気すぎて無鉄砲な所があるが、痛い所を突かれると、途端、こんな小型犬のような反応を示す。外見からしてそれっぽいから仕方ないか。
 しばらくぷるぷるしていた麻野だったが、急に顔を上げ、意を決したかのように言った。
「あれは…その…ラブ…レ……ターなんだ……ッ!!」
「……。」
「……。」
 …………………………………………… 。
「どう、書いたわけ?」
 …真っ赤になっている麻野に、どこまでも冷静に藺田が問いかけた。俺も知りたい。すごく知りたい。その果たし状と間違えられるような内容にお目にかかりたい。
「別に変に取り繕わなくていいよ。君の現国の成績はよく知っているから。」
「うるせぇし!取り繕うも何も…。」
「いいから何て書いた?」
 眼鏡をくいっと上げて藺田が問う。俺も椅子にきちんと座り直し、麻野の方へ向き直った。麻野は少しの間押し黙っていたが、小さな声でぼそぼそと、
「…〝今日の放課後、裏の広場で待つ〟…って……。」
 言った。
「…それだけ?」
「それだけ…」
「マジでそれだけ?」
「…何だよ!それだけで悪いかよ!」
 次の瞬間、俺は頭突きを炸裂させた。額を打たれ、麻野が倒れる。
「悪いかよ、じゃねぇよ!どこがラブレターだ!」
「呼んどいてそこで告白するつもりだったんだね。」
「けど、ボコられたじゃねーか。」
「朝巳さんの性格を勘定に入れてなかったのが敗因か。」
「まだ敗れてねーし!函部が勝手に現れてボコられただけだし!俺はただ…寡黙でクールな男を演出したかっただけなんだッ……!」
 麻野はわっと机につっ伏した。思いきり哀れみの目でもって藺田がなぐさめる。
「うん…まだ望みはあるよ。彼女、さほどキツイ性格じゃないし、過去のことで根に持たないし。それに、君の目指したものがどんな末路を辿るか身をもって知ることができたじゃないか。それだけで大きな進歩だよ。」
「ちょっと待て藺田、身をもって知ったのは俺だ。」
 ていうか、朝巳も朝巳だよな。何の話も聞かずに殴りかかってくるなんてさ。俺もたいがい気の長いほうではないけど、あれはありえない。決して性格は悪くないって話だが、凶暴以外ないじゃねーか。何で麻野があんな女に惚れたのかわからない。まあ俺はここでの生活がまだ浅くて、彼女のことも、仲良くなった麻野や藺田のこともよく知らないわけだけど。
「おまえはいいよなぁ」
 ずっと机につっ伏して脱力していた麻野が、ぼそりと言った。
「何が?」
「悩み、なさそーでさ。」
 ごろりと頭を向こうに向けて、麻野はそう言った。
 いや、決してそんな訳では無いんだけど。そう反論しようとしてやめた。
「あー……そうだな…。」

〝お天気〟
と、よく言われる。語感は似ているけど天気屋ってわけじゃない。正確に言えば〝いつもいいお天気〟ってとこ。つまりは、浮世の憂さも何もかもとらわれず、っていうか気にせず、どんな時でもお気楽に生きてるハッピーな人間ってとこだ。
 端から見れば、俺はそう言う人種らしい。
 中学の時も言われてたから、生まれ持っての性質かなこれは。現に、俺はあんまり悩まない。解決しない事に頭を使ったって疲れるだけだからな。
 ここでもがいても仕方ないから寝ちまおう。そうやって生きてる。だから逆に、(あくまで俺にとっては)些細なことで目くじらを立ててる奴を見ると、もう哀れとしか言いようが無くなる。お前、そんなんでキーキー言ってたら寿命縮むぜ、とかつい言っちまう。実際それで損した事は無いし、返って物事が良くなってる事の方が多い。ある意味悟ってるのかもな。
 それでも決して悩みが無いわけじゃない。
 実際、俺も好きだった先輩が急に転校して、その思いが燻ったまま今に至っている。だから、さっきみたいな麻野の気持ちも、十分わかる。
   だからこそ
   そんな風に思われて言るのは心外だった。

(…下らね。)
 重いバッグを背に回し、靴の踵を踏み直す。
 だが表に出したところで何になる?
 何にもならない。だから何も言わない。
 平凡な日常は、何も起こらないからこそ素晴らしいんだ。それでいい。たまっていた不純物を吐き出すかのように、大きく溜め息をつく。そして一人帰路につくべく、校舎の角を曲がろうとしたその時、

「少年よ。」

 階段に話しかけられた。

 正確に言えば、階段の影にいる、誰かから話しかけられた。若い男の声。けど学生でもなければ教師でもない、全く知らない声だった。気のせいではないと思う。その声は。確かにそこから俺に掛けられた。辺りはもう薄暗い。影を覗くべきかどうか迷った。これで覗いて、誰も居ませんでしたなんて最悪だぜ。俺そういうの大嫌いだからな。そうじゃなくても、何か、見ず知らずの人間が居るには違いない。どうしたもんか…。
「少年よ…迷いがあるな。」
 戸惑っていると、またその声は聞こえてきた。よく透る真っ直ぐな声だ。
「…誰だあんた。」
 試しにこちらも声をかけてみる。
「案ずるな。怪しい者だが不審人物ではない。」
「無理だろうその表現。思いきり矛盾してるだろ。ていうか怪しいんだ。」
 周りに人は居ない。声の主は明らかに学校の部外者っぽい。だが確かに不審者と呼ぶには態度が堂々としているというか…。とりあえず、距離を取りながらも、俺は階段の裏に回りこんだ。そこに居たのは―――

 ―――――壁に立て掛けられ、地面にもゴザのように敷かれたダンボール。色あせた着流しに頭巾の如く目深にかぶった新聞紙。そして木刀。
「…………。」

 なんだか、失業中のお侍感溢れるホームレスが座禅を組んでいた。

「……もう一度訊く。誰だあんた。」
「怪しい者だが不審者ではない。」
「うるせぇよ!もういいよそれは!もっと詳しく何者かって訊いてんだよ!!」
 さすがの俺もこれにはビビッた。どうやって入ってきたんだ。警備員は何してんだ!?
「それより少年よ。何か悩みがあるようだな。」
「は?」
 警備の怠慢を象徴するかの如く居座るホームレスは、唐突にそう言ってきた。
「目の前でああ大きな溜め息をなどつかれれば、気にせずとも気になってしまうものだろう。本日の目的も終え、ちょうど暇をしていた所だ。俺で良ければ、及ばずながら力になろう。」
 …何だこいつ。
「…いや、いいっす。困ってる事無いんで。」
 俺はさりげなくその場を離れようとした。こんなのに付きあってられるか。
「ふむ…そうか。」
 だが意外にも、ホームレスはそれ以上何も言ってこなかった。
「成程、一人で悩み尽くすのも一つの道か。ならば何も言うまい。だが、つまずいたなら頼るがいい。俺はしばらくここにいるのでな。」
 ホームレスは箱をたたんで立ち上がった。そして引きまくる俺に背を向け、校内のどこかに去っていった。

     ***

(……あれは何だったんだろうなぁ…。)
 昨日の事を思い返し、俺は呆然と昼休みの校庭を眺めた。
 あれは白昼夢だったんだろうか、朝早くから来て探してみたものの、階段裏はおろか、どこを探してもあのホームレスの姿は見当たらなかった。
 やっぱり、あれは日頃の疲れが見せた幻覚だったのだろうか。うん、きっとそうだ。第一、校内にホームレスがいること事態がおかしいんだ。本来なら、侵入者を発見したって事で、教師に知らせなきゃならなかったのかも知れない。
 でも、肝心のそいつは跡形も無く消えてるんだし、それに何だか告げ口みたいで知らせる気にはなれなかった。もしかしたら、嬉しかったのかもしれない。いつでも、どんな所でも、お気楽キャラとして見なされてる俺は、他人から悩みを聞かれるなんてほとんど無かったんだ。
 それより腹減った。朝買ったパンだけじゃ足りなかったみたいだ。でも、今更食糧売場に行った所で遅い。この学校の食堂競争は熾烈だ。昼時になると、中高全学年が押しかける。
 そうなると正に弱肉強食の世界だ。中でも、揚げパンは物凄い人気で、校内でも指折りの猛者にしか入手できないとか。そりゃ、揚げパンなんて一度に大量生産できるもんじゃないし、好きな奴多いからなぁ。
 かく言う俺もその一人、でもピラニアの群れ相手に立ち回る腕は無い。夢の話だ。そう思うと、溜め息が出た。
「函部か?」
 不意に、後ろから声を掛けられた。誰だろう。振り向くと、そこにいたのはあの朝巳理奈だった。
「うおわぁぁぁッ!?」
 驚いて後ろに飛び退いてしまった。失礼だった、と後で気付く。
「…おい。何だその通り魔にでもあったような態度は。」
「い、いやっすいませんッ…あまりにも驚いたもんで。」
 逃げ腰な俺に、朝巳は黙って、紙包みを一つ差し出した。
「え、何?これは?」
 中身は軽くて温かい。
「…昨日は…すまなかった。藺田に聞いたんだ。人違いだったんだな。俺もあの時気が立ってたとはいえ、何も聞かずに蹴りつけちまった。…ごめん。」
 頭をくしゃくしゃ掻きながら、照れ臭そうに朝巳は言った。その様子に、これまた失礼な話だが、俺は拍子抜けした。こんな素直に謝ってくるなんて思わなかった。たぶん第一印象が滅茶苦茶悪かったせいだろうな。
 もっと意地張ってて話しにくい女子だと思ってた。朝巳はまた言った。
「…それは、何つーか……詫びの品な。くれてやるから貰ってくれ。」
 更に驚くべき事に、包みの中身は何と、あの揚げパンだった。
「え…!?ちょ…これって入手困難なんじゃなかったのか?」
「人気だからな。俺なりに考えたつもりなんだが…。」
「いいのか本当に?」
 二重のサプライズに、少し混乱しながらも俺は言った。
「でも何か…申し訳ねェな~…。」
 嬉しいのは山々だけど複雑だ。苦労したんだろうな、買ってくるの。俺はパンを二つに割って差し出した。
「何か、俺だけ貰っちまうのも悪いわ。せめて半分でも自分の分として食えば?」
 気持ちは嬉しいんだけどさ、でも全部持ってくのは自分でも納得いかない。
「自分の分……。」
 半分を受け取らず、朝巳はそれをじっと見つめていた。そして言った。
「俺もう先に一個食った後なんだけど。」
「え。」
 ……しばし沈黙……。
 え――――と…確かこれ、全学年中でも指折りの猛者しか入手できないんだったよな。それを、俺に一つ、自分に一つ、計二つ……
 結論→超能力者!?
 俺は改めて朝巳をまじまじと見た。背はそれほど高くない。決していかついがタイじゃない。一見そんな強者には見えない。けど、他とは比べ物にならないくらい強い瞳だった。ふとした仕草も、女子高生ってよりは少年っぽい。やっぱり唯者では無さそうだ。
「…すげぇんだな……噂には聞いてたけど。」
「は、噂?」
 ふと、今までに友好的だったそのデカイ目が、あの時の三白眼に変わった。
「え!?」
「…いや、別に。でもやる奴は結構やってるよ。あの人なんか、この春転校してきたばっかりなのに、何度も勝ち取ってるし。」
 そう朝巳が指差す先には一人の生徒が歩いていた。女子生徒だ。俺達の居る中庭沿いの廊下を横切って行く。俺はそれを視線で追う。
  その顔には見覚えがあった。
 何故ここに、偶然か。制服も変わり、髪もバッサリ切られていたけど――――
「リオ先輩!?」
 思わず口に出したその言葉に、その人物は振り向いた。
「信明!?」
 向こうも俺に気付いて驚いたらしい。
「転校って、この学校だったんすか?」
「君こそ何でここに。転入?」
「いや、俺は高校からの編入なんです。親の仕事で引っ越して。」
 俺達はそのまま廊下で合流した。
「…お久しぶりです。先輩。」 
 姿を見とめた時から、胸の中は嬉しさと懐かしさで一杯だ。リオ先輩は中学時代からの憧れだった。初めは、その長い黒髪と凛とした瞳を目で追うだけだったが、町で不良に絡まれたのを助けてもらって以来、俺にとっては正に憧れその物だ。
 性格も凄く頼り甲斐があって、よく相談にも乗ってもらっていた。そう、この人も〃本当の俺〃を知る一人だ。けど、そんな人が俺の周りには何人いるだろう…まぁ、今日はそんな事どうでもいい。
 俺は、すっかりショートになってしまった先輩の髪を見た。
「切っちゃたんですね、髪。ストレートロングがトレードマークだったのに…。」
「イメチェンかな。最初は惜しかったけど、今は気に入ってるよ。」
 はきはきした口調もそのままだ。短い髪で更にそれが似合うようになってる。
「ほぉー奇遇だな。知り合いだったのか。」
「ああ、理奈さん。」
 傍らでずっと俺達を見ていた朝巳も寄ってきた。
「そういえば、何で朝巳は先輩の事を?」
「いやー、突然ふらりと現れた転校生が、あの揚げパンの乱でトップを取ったって話を聞いてさ。出向いて、何度もトップを競ううちに…。」
「仲良くなってました。」
「…揚げパンの友情…。」
 甘い物好きと、その腕前も、健在らしい。
「けど、新学期始まった時はいませんでしたよね。俺、一通り最初に学校見て回ったんですけど、先輩らしき人は一人も見かけませんでしたよ。」
「あーそれはちょっと遅れて入ったから。…些細な理由だけどね。」
 心なしか、その語尾はだんだんと小さくなっているようだ。どうしたんだろう。
「些細な理由って、」
―――――――ね?」
「…すいません。」
 久しぶりに会った先輩は、殺気の出し方も習得していた。…相手が言いたくないことは聞かないに尽きる。にしてもなんだったんださっきのは。
   ゴ――――……ン
 不意にベルが鳴る。昼休みが終わるまで後五分だ。
 先輩は、少し伸びをするように視線を上げた。
「けど、そのおかげで関西での友達も出来たし、…大事な物もたくさん見つかった。そんな点は結果オーライだね。」
(……?)
 何だろう、と思う間に、先輩は「じゃ、お先に」と自教室へ駆けて行った。
 よく分からないが、何か一皮向けた事があったんだろう。そうなれば、俺はああいう風に清々しく駆け出せるのだろうか。
「―――成程。好きなのか。」
 すぐ側で聞こえた朝巳の声。驚いて振り向くと、奴は既にチェシャ猫だった。
「なっ!?なななな何を!?」
「心配すんな、誰にも言わねーよ。俺にできるのは、ただお前を生温かく見守ることだけだ。」
 そう言って、更に朝巳はニヤリと笑った。言い返したいが、焦りと恥ずかしさで声が出ない、何しろ図星なんだし。
「じゃあ俺も行く、あと、何か手助けして欲しい事があるなら言えよ。仲とりもってやるぜ!」
 朝巳は楽しそうに(ていうか面白そうに)、軽い足取りで駆けていく。余計なお世話だ!と言いたかったが、やっぱり声にも言葉にもならず、俺はじたばたした。そして、ふと朝巳が振り返る。
「あ、その揚げパン、ちゃんと食っとけよ。せっかくお前の分までとってやったんだからな。」
 そうとだけ言い残すと、朝巳は一気に向こうへ走っていった。
「…何あれ。」
 茫然と立ちつくす俺の手には、二つに分けられた揚げパンがあるのみだった。何というか…生意気っていうか、調子のいい奴だよな。ちょっと人をくったような所とか。けど、どこかさばさばしてて憎めない。麻野が好いたのも、今なら分かる気がする。手元の揚げパンを見て、少し笑った。すると、
「は~こ~べ~~~~~~~~~」
 何やら後ろから、地獄の底から這ってきたような声で呼ばれた。嫌な予感がする。半ば硬直しながらも、俺は後ろに振り向いた。
 …そこには案の定、鬼の形相をした麻野が茂みから顔を出していた。両眼が羨望と嫉妬で、爛々と光っている。怖いって。麻野はそのまま飛びかかってきた。
死ぬ覚悟はいいかぁぁぁぁ――ッ!」
「うわ――ッ待て、落ち着け麻野!」
「やめないかこのバカ。」
 続いて現れた藺田が、麻野の襟首を掴んでその頭を筆箱(ブリキ製)ではたいた。それでも尚、麻野はキーキー泣き喚いている。
「落ち着け麻野、俺はただ昨日のお詫びにコレもらっただけだ。」
そう言って、手元のパンを見せる。すると、ちょっと涙目の麻野は、すかさずでかい方の半分を、俺の手から奪い取った。
「ちくしょおお何でだよ!何でなんだよ!」
 歎きながら、麻野は揚げパンにがっついた。何だか、その姿がすごく哀れに見える。多分原因は俺なんだろうけど。ふと手元を見ると、もう半分も無い。
「ボコられて、逆に親しくなれたとはね。なかなかやるじゃないか函部君。」
 そう言う藺田の手に、その残り半分があった。
「てめっ藺田いつの間に…!つーか何勘違いしてんだ!」
 奪い返そうとする手をひらりとかわす。
「安心しなよ、そのくらい見てわかるさ。どっちかって言うと朝巳さんより、隣の人に気がいってたみたいだね。」
「な、何で気付く!?」
「…だ、そうだよ麻野」
「まじでか!?」
「藺田、てめーカマかけやがって!」
「そんなことより」
 藺田が中庭の時計を指差す。唯今、一時二十五分。そう見とめると同時に始業ベルが鳴った。
「…ちなみに移動教室な。」
 そう言い残すと藺田と麻野は駆けて行った。

 …その放課後。
「…どうした少年よ。」
「あんたか…てか、まだいたのか。」
「今日は一段とやつれた様子だが。」
「…うん、あいつが悪いわけじゃないんだ。俺の要領が悪いだけなんだ。…けど、あいつに関わると、俺の身に何かしらの災厄がふりかかる。そう運命付けられてる。うん、そんな気がするんだ。」
「よくわからないが……弱気にならんことだ。運命と諦めてしまっては、それに向かう気力も衰える、と思う。」
「…わかった、ありがとう。」

    ***

 けど、何だかんだ言っても朝巳は面白い奴だった。
 まず驚いたのが、その友人の多さだ。クラスを問わず、学年の三分の一ぐらいが、こいつの友達といえるだろう。そのジャンルも様々だ。そして朝巳自身、そのやたら広い守備範囲グループの中に、すんなりと溶け込んで行く。さすがは名物人物と言った所か。だがその時々に見せる印象がまちまちなのだ。
 態度も、喋り方も変わってないはずなのに。何だか、自分から出る何かを、他に合わせている気がした。学業も全体的に優秀で、俺なんかと違って教師からのウケもいい。(本人曰く「上手く騙せてる」らしいが…。)そして金の亡者だ。かの有名な〃理事長の汚職暴いた事件〃はそのお金大好き根性の賜らしい。
「あの理事長は生徒会内での俺が守る聖域を汚した。あれは当然の制裁だよ。」
 公共倫理もへったくれも無い、かえって素晴らしい。
 ところでなんで俺がこんなに朝巳の情報を持っているかって?
 答えは簡単。パシられているからである。…と言ったら過言だな。でも、手伝いをしているのは事実だ。
 この学園では、近々生徒会主催の行事をやるらしい。で、各クラスの数人を委員として選び、生徒会のメンバー共々準備をする。つまるところ、俺はその一人だ。ボー―っとしてたら選ばれてしまった。
 で、俺が組まれたチームの担当が朝巳だったわけである。
「…つーことで、次の土曜、奈良までパンフ用の紙、買いに行くからな。」
「俺は荷物持ち?」
「察しがいいな。」
 俺は溜め息をついた。麻野に援護を求めようか。あいつなら体格の割に腕力あるし、何より朝巳がいるし。けどかえって恥ずかしがっちまうかも。変なとこシャイだからなあいつ。ラブレターの中身も、その照れ隠しだったんだろうか。
 それにしても、朝巳も卑屈だ。確かに、あの内容は言葉足らず過ぎたけど、恋文的な要素が全く無かった訳じゃない。何かしらの期待はして行ってもよかったろう。現に、朝巳の外見は確かにカワイイ。……口が裂けても公言できないが。送るなら果たし状よりラブレターの方がはるかに自然なはずなのに。…まさか自分に自信がないのか?そんな風には見えないが……。
 ともかく、あいつは色んな意味で、誰からも一目置かれている。
 そしてどんな奴からも話しかけられる。
「けどつくづくすげぇよなお前って。…誰とでも気さくに話せて。さすがに俺で もこうはいかねぇわ。やっぱそのキャラがウケるんだろうな」
 あははーそかねぇ、と朝巳は笑って、
 言った。

「俺はピエロだからな。」

     ***

「自分のことを道化師(ピエロ)と。」
「あれはどういう意味だったんすかね。」
何となく、その言葉が引っ掛かって、俺はそれを例のホームレスに打ち明けた。何故こいつかは分からない。他に言えそうな人がいなかったからかな。
「…自分を道化だと感じているのか?」
「さぁ…でも端から見れば、そういう風には見えねっすね。…それより俺、あの時あんな風に言ってよかったのかって…。」
あの時の朝巳の声は、どこか自嘲している風があった。あの言葉が、どこにどう繋がるのかは分からない。ただ、もしあいつを傷付けてしまっていたのなら罪悪感がある。 
「俺って、こういう複雑な事に疎いもんで……今までずっとお気楽に生きてきたもんだから。」
「そうなのなら、珍しいことだな。お前のような者が、他人のことで悩むなど。」
確かにそうかもしれない。ただ、朝巳の言ったことは、分かる気もするのだ。俺が時々、心中で呟く言葉。
〃俺は、お天気、だから。〃
その影響は、あまりにも似ている。
「…だが、俺に言わせればそれは人の和を重んじる、素晴らしい姿勢だ。そしてお前にとっても大きな前進だ。確かに、その者の事はその者の事。我々がどうこう出来る訳では無いし、自身でけじめをつけるべき事。それでも、察することは相手に救いとなる。」
そう。俺には関係無いし、考えてもどうにもならない。
けど、気にくらいは留めておこう。俺と似たあの呟き。

     ***

そんなある日の事。六限目で終わった日の放課後だった。
「…いつまでやってればいいんだ、しかも俺達だけ…。先輩ーそろそろ休憩しません?」
「それはせめて見えるところだけでも片付けてからでしょ。椅子も並べ直さなくちゃならないし。」
「けど、いくら他の都合がつかなかったとはいえ、二人だけでこのデカイ講堂掃除はあんまりですよ。俺、一っ走りして手伝い集めてくるついでに、何か飲み物でも買ってきます。先輩も要ります?」
「私はいい。ペットボトルのが残ってる。」
「質素っすね……。」
「信明も大概贅沢者だよ。いつまでもおやつがブリオッシュだと思うなよ。」
このネタ、分かる人どれくらいいるだろうなぁ。
そう思いながら、行事の会場となる馬鹿でかい講堂、そのステージの壁にモップを立掛ける。高二で委員に選ばれたリオ先輩は、また黙々と二階席の掃除を再開した。そして朝巳が入ってきたの、丁度俺が出ようと扉を開けた時だった。
「お――皆様やっとりますかー。」
「朝巳…てめぇ手ぇ空いてんなら手伝えよ!」
「そのつもりで来たんだが、その前にさ。リオ先輩。」
朝巳は先輩の方を見上げ、外を指差した。
「外に知り合いとかいう人が来てますよ。」
「知り合い?誰だろう、校外の人?」
モップを担いでリオ先輩が降りてきた。朝巳は頷く。
「大学生くらいかな、金髪でチャラチャラしてるけど感じが良くて可愛い子と、すらっとした長身で清楚な美人でした。」
「ああ、あの二人!」
それだけで分かったらしく、先輩は朝巳に連れられて出ていった。
「もしかして、前言ってた関西での友達ですか?」
 前から気になってはいたが、どんな人たちだろう。興味というか、半ばスケベ心に動かされ、(だが勿論一番先輩だ!)、さりげなく俺も後をついていった。
「うん、だけどどうしたんだろう。普段は神戸とか大阪で動いてるはずなのに。」
 朝巳は先頭を切って、校庭の隅の方へと進んでいく。
「で、どこまで行くんだ?」
「ここだよ。」
 校舎の陰になった端っこ、フェンスの向こうには二人の人物の姿があった。先輩はそこまで駆けて行き、俺達は少し離れて待った。
 へぇ、あれがその友達かと目を凝らす。なるほど、朝巳の言うとおり…………いや待て?
「…朝巳。あの二人がさっきの説明の……。」
「おう、お前もそうは思わんか?」
いや…あながち間違った説明じゃないとは思うけど…
男じゃないか!!
「何でだ!?なんでああ紛らわしい表現使う!?」
「悪いかよ…てか何絶望してんだ?」
 だってああ言われれば、絶対女の子だと思うじゃねぇか!
 期待させるだけさせやがってこんちくしょおぉぅ――――!!
「えーと……あそこで一人何か盛り上がってるのは……リオの友達?」
 来訪者のうち、やわらかい髪色で長身の方が、そんな俺に目を向けた。
「後輩です。あ、その隣の子も。あいつは前の学校でも一緒だったんですよ。」
「へぇ~リオちゃんの舎弟かー。ふむ、それなりの人脈は辿れそうやな。」
 相槌を打ったのは、金髪ピアス、ホスト崩れのような男だ。
 そして、どこまでも親しげに語り合う彼ら。先輩のことを〃リオ〃〃りおちゃん〃とあだ名で呼び、先輩も勝手知ったるといった様子で談笑している。その様子に、俺は胸騒ぎを覚えた。……これは期待が外れた所の話じゃない。
  ―――――まさに強敵出現に他ならない!!
「先輩!」
 俺はすかさず、その間に割って入った。
「あの、お話中失礼とは思いますが――。」
「? 何?」
「この人達何者ですか。」
 そう言って俺は彼らの方を向いた。眼には闘志が宿っていたに違いない。後ろの方で朝巳が必死で笑いを堪えている。
 だが、これを黙って捨て置けという方が無理だ。
「ほー、中々の威勢やな。さすがはリオの後輩。」
「うん、イキのええ人材や、期待できるで。」
 しかし、二人は俺の敵意に満ちた無礼な言動にも全く動じていないようだ。それどころか、妙なところで感心された。しかもなんだよ人材って。
「諦めろ函部。最初から相手にされてねえわ。」
 後ろから、笑いを含んだ朝巳の声が聞こえた。
「ああ、失礼。せやな、生徒からしたら俺らめっちゃ不審者やんな。」
 人懐こそうな笑みを見せたのは、金髪ピアスの方だった。
「俺は槙野伊織。大阪に事務所持ってる私立探偵や。で、こっちは神戸支部の俺の助手。」
「ちょい待て、俺の家いつそうなってん。」
「ええやん実質的にそうやねんし。」
「あはは――土に還すで❤」
 漫才のようなやりとりの中、柔和さと爽やかさで誤魔化されてはいたが、さりげなく猛毒を吐いた片方も、こちらに向き直った。
「俺は杜宮霞衣。時々こいつの助手はするけど、本業はただの骨董屋。で、リオの兄貴は俺の上司、そんなわけで知り合うてん。」
「うーん、二人ともこういう自己紹介してるの見ると、何か習慣で続いちゃうな。では改めて。私は輪道寺馨。この探偵事務所で、暇を見つけてはボランティア助手をしています。因みに兄…ていうか兄として見てる従兄は同姓同名なのでくれぐれも間違えないように。」
「そう、その兄貴やねん。」
 …全員の自己紹介を終えた後、溜め息のようにチャラ男探偵は言った。
「そこで君らにも聞いて欲しい話やねんけど…。」
 そこまで言って、探偵は向こうの壁の方へ目をやった。助手も、先輩もそっちを見ている。俺達も其方を見たが、何も無い。探偵が言う。
「そこの少年ズも、隠れんで出てきなさい。」
 その呼びかけに、壁の陰からあの二人が現れた。
「…なんでバレたんだ……?」
「顔すら出してなかったのにね。」
 麻野と藺田だ。驚く二人に、得意顔でふふんと笑った。
「大規模になりすぎたら困るけど、情報網は広い方がええ。君らも聞いてくれる?」
 助手も手招きした。二人は素直に寄ってきた。たぶん麻野は朝巳を追っかけてたんだろう。でも、話しかける機会を掴めないで、ここに辿り着いたんだと思われる。藺田はそれを、水を差しながらフォローしてたんだろう。
 探偵・助手・先輩・朝巳・麻野・藺田・そして俺。
 …妙な面子がここに集結した。

「ではまず、なぜ俺らがここに来たのか。」
 探偵は懐から一枚の写真を出して見せた。若い男の写真だ。真黒な長髪を後ろで一つにまとめている。その眼差しは知っている誰かに凄く似ている気がした。
「こいつは輪道寺薫。…つまり、さっき言ってたリオちゃんの兄貴や。」
 …ああ成程。道理でそっくりな筈だ。他にも似ている人を知っている気もするが…まあいい。説明を聞こう。
「こいつは唯今行方不明で、俺はそれを探してる。けど、俺みたいな探偵が出勤してるのを見れば分かると思うけど、あくまで内密に探しとる訳よ。…で、居間まで調べた結果、こいつはこの辺りにおるっちゅーことやねん。
 俺らとしては、早く見つけて連れて帰りたいんやけど…この通りここにはデカイ学校がある。そんも中にまで、俺らが調べに入るわけに行かんねん。」
「そうでなくても、ずっとこの周辺探すんは、俺らだけじゃ人手が足らんのよ。」
「せやから、もし心当たりとか、それらしい人見たりしたら、リオちゃん通じて連絡して。」
 探偵組が話しているのを聞きながら、俺はまた写真を見た。
 …やっぱり気のせいだろうか。誰かに似ているのだ。
 先輩ではないとすると一体誰に――――
 そう思いながらふと傍らを見ると、朝巳目が合った。朝巳も、じっと写真を見つめていたんだろうか。すぐに朝巳はふいと視線をそらす。
 その横で、藺田が顔を上げて言った。
「分かりました。何かあったら連絡します。この先輩を通じて、ですね。」
「ありがと。頼むで。そうでないと―――――。」

「何をしているんですか貴方達!?」

 突如飛んで来た中年女性の声が、探偵の言葉を遮った。
 声の方を向くと、校舎の方に一人の教師が立ちはだかっていた。
「げ…ロッテンマイヤー…。」
 麻野が呟く。
「…何だそれ?」
「生徒指導部の先生。担当は世界史。名前の由来は…分かるよな。」
 そう俺達が囁き会う傍まで、ロッテンマイヤー先生はずんずんよってきた。
「何やら大勢の話し声が外からも聞こえてきたのですけれど…。無許可の来訪者でも来たのですか?」
 ロッテンマイヤーは、キラーン✧と眼鏡を光らせて周囲を見まわした。
「あ、いえ!そんなことは…!」
 やばい。何でかわからないけど隠さなきゃならない気がした。慌てて外の探偵達の方を向いたが、
 そこには、ただフェンスと茂みと木立があるのみだった。
(…居ない……!?)
 麻野も、藺田も、同じような表情で其方を見ている。あの一瞬で、何処に消えたんだ。驚く俺達をフォローするように、先輩が歩み出て言った。
「何でもありません先生。ただ…。」
 その手には、
「スズメが落ちていたので。」
 …無理矢理捕まえられて静かに怒り狂う一羽のスズメの姿があった。
 ヒソヒソ声で俺は訊く。
「…いつ捕まえてきたんですか。」
「さっき。」
「…………。」
 先輩は、さも保護したスズメをいたわるように、そいつを放した。スズメは、ケガもホゴもクソもあるかと言うように元気良く飛んで行った。
「……なら良いのですが。」
 ロッテンマイヤーはフンと鼻を鳴らした。
「けれども気をつけて下さいね。最近校内に不審者が入り込んでいるようです。確かな情報ではありませんが、十分注意して下さいね。」
 早口でそう言うと、ロッテンマイヤーは去って行った。俺達は、それを呆然と見送った。十分離れたのを見計らって、先輩が言った。
「行きましたよ。」
 すると、木々の木立の影から
「行ったか。」
 助手が顔を覗かせた。ガサガサ動くその足元を見ると、
「何あのオバチャン怖っ。」
 探偵が茂みの下から這い出していた。
「生徒指導部のロッテンマイヤーですよ。」
 木の上から、ザンっと朝巳が飛び降りた。
「「「…………。」」」
 そして三人は、各々の立ち位置に戻る。
「「……居たのか―――――ッッ!?」」
「ていうかなんで朝巳まで隠れてたんだ!?」
「この前の世界史のテスト悪かったんだ。」
「いや待て、朝巳、お前成績優秀者じゃなかったっけ!?」
「歴史系ダメなんだ。過去は振り返らん主義でな。」
「歴史に学べよ。」
「えーと…さっきの話に戻るけど…。」
 コホン、と探偵は咳払いをした。
「…そうでないと、あんなのが出て来るって事やなつまり。」
「…わかりました。」
 俺達は全員で頷いた。
「けど、目標は近いみたいやで。あのロッテンマイヤーさんの言った事がほんまなら薫はこの辺りにいるってわけやし。」
「せやな。じゃ、よろしく頼むで―――!」
 そう言って、探偵組は去っていった。

   ***

 その日、すっかり薄暗くなった夕方。俺は、誰も居なくなった校内の影という影、隅という隅を見て回った。あのホームレスは何処にも居ない。
 探偵達の話を聞く内に、あの薫という人が誰に似ているか、だんだんと分かってきたのだ。
 そう、あのホームレスである。
 目深に被った新聞頭巾のせいで顔こそ分からなかったが間違い無い。
 あいつが薫なんだ
 でもあえて俺はあの時その話をしなかった。確信が持てなかったせいもある。けど、それより気になった事もあったのだ。何故あんな格好をして校内をうろついているんだろう。ありきたりな問い賭けかもしれないが、本当に気になったのだ。
 度々話す内に情が移ったんだろうか。探偵に知らせるにしても、その前に向き合って話がしたかった。
 けれどもホームレスは見つからない。
 でも、その方が良かったのかもしれない。自分から去ってくれれば、俺もあいつを売るような事はしなくてもいい。あいつも、不審者として見つかる最悪のケースは避けられるんだ。
 諦めて、俺は顔を上げると――――――そこには朝巳がいた。

「…誰か探しているのか?」

 朝巳は真っ直ぐに俺を見つめてきた。
「いや、別に……。」
 俺は慌てた。まずい。まさか、校内に入り込んだホームレスを探してるなんて言えない。第一、こいつも情報網の一人だ。
 俺は誤魔化そうとしたが、朝巳は尚も俺を見ている。疑る訳でもなく、責めるようでもなく、ただじっと俺を見つめ続けた。
「な、何だよ!俺何かした!?」
 焦って俺は視線を逸らす。バレてるんだろうか。バレてるんだろうな。この目は、何もかもを見透かしてる。そんな感じがした。
 しばらくの沈黙があったが、先に口を開いたのは朝巳だった。
「…まさか、お前もか。」
「………え?」
 朝巳は、俺を見つめたまま言った。
 まさか。俺も問い返す。
「お前もって……。」
「やっぱりな。」
朝巳は少し溜め息をついて目を逸らした。そして言った。
「俺も実は探してたんだ。…何だか気になってな。だがまさか、俺の他にも気付いてる奴が居るとは思わなかった。」
 友達に言っても信じてもらえなかったし、と朝巳は続けた。
「気付くって…まさかお前も知ってたのか?」
「ああ。」
 俺の問いに、朝巳は頷く。そして言った。

「ホームレスだ」

            To be continue
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