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黄昏シリーズ

バカとピエロとホームレス・後

 ←トレカ再び →企画告知ついで
     
 俺が思うに日常ってのは、何も事件が起こらないからこそ素晴らしい。ジュースを買いに行って蹴りを入れられることもないし、揚げパン奪われた上、授業遅刻でイエローカードをもらうこともない。
そして、突如校内ホームレスが出現し、それが先輩の兄貴だった、なんてこともあるわけがない。

そう、普通の日常なら。

バカとピエロとホームレス・後

(2010年製作・文芸部誌「Dolce」収録作品 2014年修正及び再編集)

「…平和な日常に戻りたい…」
「急にどうしたんだ函部君。なんか影ながら平和を守るレンジャーみたいなことをのたまって。ついに中二病発症か」

 金曜日の放課後、校外のベンチにて、間食のホットドッグ片手にうなだれる俺に向けて、藺田はいつものように言った。
 この一見冷静そうな眼鏡男子は、真面目面で人をちゃかすのが得意だ。けどマトモにツッコミ返すのもめんどい。
「いやさ~、そうでなくても最近そう思わね?色々あったしさ~」
「…そうだな。俺もあの件があった三日前に戻りたい」
「何?お前まさかまだそのこと引きずってんの?」
 湿った声でそう言ったくしゃくしゃ頭は麻野。三日前に意中の女子に告白を試みたものの失敗、その原因は俺らしい。自業自得にしか思えないけど。そしてその女子というのが我が校の生徒会会計・朝巳理奈。俺の平和な日常を壊してくれた一人だ。もうこいつについて多くは語らない。
 そのうち否が応でも思い知らされるはずだ。
幸い、本人はここに居ない。で、そんな日々の憂さを晴らすべく、俺達はこうして駅近くの広場でたまって物を食っているわけだ。半分やけ食いだよなぁ。たまにはいいだろ。
「あー麻野。袋捨てんならコレも頼む」
「自分で行けよ!」
「一番ゴミ箱に近いの誰だ。それに二つも一つも変わんねーじゃん」
「傷心の俺をこき使うその根性がわからねえ…!」
「あ、麻野君、これも頼む」
「ちょっ藺田!?」
「函部君あと何が残ってる?」
「4本入りの串団子が5パックある」
「ああいいよ!俺が行きゃいいんだろ!?じゃあ行ってやるよ!!」
 半ば捨て台詞のように言って麻野はゴミ箱に駆けていく。広場のゴミ箱は、周囲の植え込みの中にある。ガサガサと茂みをかき分ける音が耳に入るなか、

もぎゃ。」

 …ふと奇天烈な音声が耳に飛び込んできた。思わずそちらを向く。
「何だ?どうした?」
「…なんか踏んだ」
 近寄ってみると、茂みの端から何やら衣服の端のようなものが垣間見えた。俺達三人顔見合わせる。おそるおそる下を向く。
 そこには、人が倒れていた。
「「「……」」」
 しばらく言葉を失ってみる。…そんでもって。
「救急車ー!!」
「ばかー!!まず本人の状態を見ろー!!」
「動いてないー!!」
「脈はある」
「呼吸はー!?」
「正常」
「とりあえずベンチまで運び出せー!!」



~数分後~
「…はあ~…生き返った…感謝するわ少年ズ」
 すっかり空になったパック団子五つ分の残骸を傍らに、その人物は満足げにため息をついた。本来なら俺達の胃に召されるはずだったであろう団子は、一本たりとも残っていない。ほぼ一瞬で消えたんじゃないか?
 生き倒れの張本人はというと、見覚えのあるブランデー色の目を、猫みたいに細めて、ベンチの上で呑気に茶をすすっていた。
「…何やってんだ助手」
「うん?」
 そう。生き倒れはチャラ男探偵の助手、カイ。…この事実は、俺を再び現実に引き戻すには十分だった。
「〝うん?〝じゃねーよ!何が起こってこんな町中で行き倒れ!?」
「えーとー…君は確か…麻野君?いや、大した理由やないねんけどなぁ」
「大した理由無しに行き倒れるってどうよ」
「生来それほど頑丈なタチやないねん。ちょっと訳あって二日ほど絶食してもーてな~。腹減って一歩も動けんところを」
「僕らが来たんですか」
「まずそこはちゃんと飯食おうよ」
「それがな、」
 助手は相変わらずベンチを占領し、緑茶片手にぼやいた。
「イオリに…作り置きしてたおでん全部食われてもーてんよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
 イオリというのは相方のチャラ男のことだ。二日分のおでんって、あの小柄な体でどれだけ食うんだあの人は。
「けど君らのおかげですっかり良うなったみたい。改めて言うけどありがとうな」
 助手は立ち上がって少し伸びをすると、俺達に微笑みかけた。何故だか俺は却って恐縮してしまった。ただ無言で首を横に振っただけだったが。なんでだろうか。先輩に近付く者としての敵対心はあるけれど、その人自身はそんなに嫌いではない気がした。
 これを機に、薫のことは話すべきなんだろうか。
 突如校内に出現した、先輩の兄のホームレス侍。何か目的があるらしくて俺たちの学校に居座っている。知っているのは俺と朝巳だけ。そして、友人であるこの助手や探偵が探しているわけだ。おれは何故か妙な友情関係が出来上がってしまって、彼らにも、麻野達にも、そのことを告げられずにいる。でもここまでくると、あいつもちょっと迷惑のかけ過ぎじゃないだろうか。
「じゃ、そろそろ行くわ。ごちそーさん。何かあったら遠慮せずに言うてな」
「あ、ちょっと」
 助手が立ち去ろうとしたのを、俺は思わず止めた。助手が振り向いて、麻野と藺田もこちらを向く。
「えと…あの助手サン、」
「カイでええよ。呼びにくいやろ。〝助手さん〟て」
「じゃ…カイさん。薫さんのことなんですけど――」
 浅野も藺田も聞いている。やばい。後には引けない。ここはひとつ当たり障りの無いこと…
「あの、薫さんて、」
おった―――!!どこ行ってたんやカイ!!」
 しどろもどろな俺の言葉を、後方からの妙に元気な声が遮った。
 振り向けばそちらには目にも鮮やかなオレンジ色・メッシュ入りド金髪から伸びた、黒くて長い尻尾をぴょんぴょんと揺らして、あの探偵はやってきた。
「もー、今までどこ行っててん、探したでー」
 そのまま探偵は喋りながら寄って来る。ナイスだ!ナイスだ探偵!!不本意ながらだろうが助太刀ありがとう!!
 だがすぐそばで何やら不穏な空気が動いた。と見る間に、
「…何が、どこ行ってた、やねん…」

   バシュッ

「え?……ってうおおおおっっ!?」
 カイが投げた団子の串が、探偵目掛けて鋭く飛んで行った。
 間一髪でよけた足もとに、三本の串がシュカカカッと突き刺さる。
「ちょっ!?何!?感動の再会のはずが何この反応!?」
 哀れな探偵は全く状況を理解していないと見える。
「黙らんかこのアホ。…さっきのはダシもよう吸わんと、お前の腹ん中に逝った哀れな大根達の分!」

  シュビッ

「ひぃっ!?」
「そん次は売り切れ寸前のを買いに走った卵の分!!」
  
  シュトトトトッ!

「のわ―――っ!?」
 俺らもう出る幕ないよね。
「そんでもって倉庫の奥で半年くらい存在忘れられてたしらたき!」

 ズバババババッ!

「なんでそんなもん入れてんねん!?」
「お前なら大丈夫や思て」
「俺が食うん予測しといてここまでやるか普通」
「全部食われるとは思っとらんかったなあの量を」
「…何しに来たんだあんたら」
「「うん?」」
 二人は改めて気づいたようにこっちを向いた。周囲には計二十本の串があちこちに刺さっている。それを見まわし、我に返ったようにカイが言った。
「あー、チョイやりすぎちゃった?」
「ちょっとじゃねえし!!」
「団子の串でここまでできるってある意味感動だね」
「わースゲェ、思いっきり刺さってる」
「そして君らはなんでそないに冷静なん…」
「イオリ、引いたらあかん。リオの舎弟やで」
「…―ああー…」
「それで納得される輪堂寺先輩って何なんだ」
「しかもさり気に仲直りしてるしこの二人」
 前の二人はふと顔を見合わせる。そしてしばらく間があり。
「ん―――…飽きたから?」
「「飽きたって!?」」
「いやいや君らこいつの言動に脈絡を求めたらあかん。俺もけっこーそれで助かってる」
「人様の食糧食いつくすあんたもどうかと思うがな」
 そういう俺も、そこもメガネと失恋(?)野郎に、わざわざ貰った揚げパンを食われた身だ。食いモンの恨みは怖いんだぜ~
「せやでイオリ、飽きたいうても忘れたワケやないからな」
 人の心読んだ!!?
「ま、いつまで言うててもしゃーない。行くで、イオリ」
「…はーい…」
 たしかこいつら、イオリが探偵で、カイが助手だったよな。そんなことを思っていると、不意にカイが前に出てきて言った。
「函部君、手ぇ出してみ」
 言われるがままに手を出すと、カイは俺に何かを手渡した。と見るや、…俺の掌にうず高く積み上げられた十円玉タワーが出現した。
「…何これ…」
「色々飲み食いしてもーたから、今、手持ちこんだけしか無いから残りは次まで勘弁して☆」
 あまりにも鮮やかで一瞬のことに、俺達は計三十枚の十円玉を前に、言葉を無くした。
「…すげぇ…」
 しばらくして、ぽつりと呟いたのは麻野だった。
「すげぇ!マジすげぇよ!!あんた手品師か!?どうやってやるんだそれ!?ま、まさか俺にも出来たりするのか!?」
 子供のように瞳を輝かせて掴みかかる麻野の手を、ひょいとかわしてカイは笑う。
「いや~わからんで~?こーゆー事っちゅーんはココロキヨラカナル人にしかできひんからなー」
「まじでか!?」
「こらーカイ!純朴な青少年騙したらあかん!!」
 そんなイオリの叫びも虚しく、麻野は尚もはしゃぎ続け、カイはソレに対し妙な解釈をたれる。(内容は多分、あること・ないこと・あること・ないこと・ないこと)
「ちょっと待てー!これだけしか無かったって、どこにこんなにも入れてたんだ!?どこにしまえってんだよ、この量を!?」
 そう言う俺の叫びも、もう奴らには届かない。
「良かったじゃないか、財布が太るよ」
「質より量かよ!」
 やれやれ…



「へぇ…そんなことがあったのか」
 次の日、十分休みの自販機の前、事も無げに朝巳は言った。
「で、俺にどうしろと?」
「いや、どーにかしろとかそーゆー問題じゃねぇんだけど」
 ダルそうに溜め息をつくと、朝巳はカフェオレ片手で、器用に腕組みをして壁を背にもたれかかった。
「で、結局タレ込んだか?あいつの事は」
 さして興味も無さそうな顔でとんでもない事を訊く。
「言わんかったけど」
「あ、そー(まあ、だからってどうってもともないけど)」
 聞こえてんぞ、カッコ内。全く、こいつも当事者だってのに、まるっきり他人事だ。俺が、お前の言い分気遣ったってのわかってねーのかよオイ。
「ならお前ならどうした?俺の立場だったらさ」
「あ゙――お前の立場ぁー?」
 勢いよく中身を吸い込んだそのままの格好で朝巳は、またダラけた声で言った。牙を立てられたストローが可哀想。
「言ってたね、多分」
「…言ってたって…オイ…」
 随分と情け容赦ない事を仰る。コイツに訊いた俺がバカだったか。でも、その言い分も分からなくもない。
「…ま、たしかにその方がいいよな。探す側としちゃ心配なんだろうし、バカやってるのはあいつの方なんだし」
 俺も、自身に馴れ合うかのようにそう吐き出して溜め息をついた。そうだよ。放っときゃいいじゃないか他人の事なんて。それに俺がチクらなくったって次期にどうにかなるさ。いつも通り、俺はバカの振りして見てりゃいい。

 俺に厄介な問題を振らないでくれ。どうせ出来やしないんだから。

「……」
 朝巳はそんな俺をしばらく黙ってみていたが、ふと呟いた。
「俺そういう意味で言ったわけじゃないんだけどな」
「……え?」
「だってさ、」
 と朝巳は向こうを指差した。俺達の居る廊下の隅から、ちょうど見える建物と建物の隙間の向こう。ここからはソウそう離れていない所に、
  奴はいた。
 ―――風流に着こなした着流し。腰に木刀、日付の変わった新聞紙。そして手に何故か三つほどの揚げパン(我が校の食堂名物。人気で大変競争率が高く、よほどの手誰でなければ入手困難)をかかえて、
 どこと無く嬉しげに、悠々と奴は校舎の間を歩いて行った。
「…………」
 あれこそホームレス侍…もといバ薫だ!
「あんな奴がチクられた所で簡単に捕まると思うか?」
 そう軽く言うと朝巳は、絶句する俺を捨て置いて「あハハーじゃあねぇ~」とトンズラした。俺は尚も薫が通った方を凝視する。
 何やってんだアイツはあああああああ!?
 今堂々と真昼の校内歩いて行ったよな!?揚げパン持ってたよな!?しかも三個!?買ったのか!?買ったってのかあのナリで!?
 なんかもう色んな意味で捨てちゃおけねぇ。今度こそと、捕まえて小一時間弱説教してやる。いや、小一時間?そんなに時間じゃ今無ぇか。てか今は確か十分休み…と、我に返った途端。チャイムが鳴った。
   四限目の始まりだった。


 永眠暁を覚えず。国敗れてなんも無し。
 ごめん、今の俺の気持ち、ちょっとカッコ良く言ってみただけ。
「それは災難だったな」
「てめーのせいだろーが!!」
 俺が遅刻した四限目は、不運にもあのロッテンマイヤーの世界史で、俺は授業が終わった後も、みっちりしばかれた。おかげでメシも食い損ね空腹この上ない。
 にもかかわらず、目の前の偽ホームレスはこれ見よがしに揚げパンとかぜーたくなモンを三つも抱えている。ちょっと世の中おかしくね?
「しかし…よく止められず三つもゲットしたな。どんな手を使った?」
 興味津々と言った様子で聞き出そうとしているのは、俺のホームレス探しについて来た朝巳だ。てかお前これ以上パン食い競争のスキル上げる気か。ここで俺みたいに飢えてる哀れな貧民に施そうという気はねーのか。
「まず完全に己の気配を消し、次に自然且つ迅速に目標の前へと進み出る。そうして物音を立てずに目標を取得すると、来た時と同じく迅速に去る。代金は去り際に定額きっちり置いて行くのがベストだ。あくまでさりげなくを心掛ける。人々の視線が外れた間を縫って動くのが効果的だ」
「そしてあんたはなんでそんな胡散臭い技法伝授してんだ」
「ん?ああそうだった」
 薫は何か思い出したように言うと、両手に二つ、揚げパンをほいっと差し出した。
「どうせだからと思ってお前達の分も取って来た。受け取ってはくれまいか」
 そう言うと、薫は、朝巳と俺に一つずつ揚げパンを手渡した。
「…え?あ、ども…て何で!?」
「受け取っといて言うか今更」
 実にさらりと着服する朝巳。お前もお前だろ。
「いや、一度くらい食べてみたかったというのもあるが…ここに居る間、お前達には何かと世話になったから。ほんの気持ちだ」
 ほんのって…。でも、その気持ちは何となく俺にも分かる。何となく嬉しい。
「でも生憎だが…あんたの友達が探し回ってるみたいだよ。俺達の所にも聞き込みに来た」
 そう言う朝巳の声はいつに無く真面目だ。
「悪いが、俺はあいつらに聞かれた時、お前の事正直に話す気でいるから。あいつ等も困ってるっぽいし、俺も別にあんたを隠さなきゃならない義理は無い。構わないか?」
 躊躇う気配も無く、朝巳は面と向かって、ハッキリ薫にそう言った。
 ……こういう所、正直やっぱりこいつはすごいと思う。親しくなって日も浅い奴に、煩わしい気遣い一切無しで真っ直ぐものを言う。俺には到底真似できないだろう。
 薫は少し笑った。
「何も案ずる事は無い。俺は俺の意志でここにいる。俺を探しているのもあいつらの自由、そしてそれに関するのもお前達の自由だ」
「じゃ、お互い恨みっこ無しだぜ?」
 朝巳もニッと笑って返した。
「じゃあ俺らそろそろ行くわ。ちょっと買出しに出なきゃならないんでね。行くぜ函部!」
「あ、ちょっ待て朝巳!…ったく…」
 俺は追いかけようとして、やめた。何だか、追いつけそうにない気がしたからだ。そりゃ男子女子の体力差を考えりゃできないことは無いだろうけど…そんな問題じゃなく。
「…どこから来るんだろうな、あの自信は」
「いや、あれはおそらく自信とはまた違う物だろう」
 俺はそう言った薫の方を向いた。それこそ数日しか見てきてないけど、コイツの人間観察眼驚くほどに鋭い。こんなことしてるけど、とてつもない洞察力の持ち主なんだろう。…てか元々用があるのはコイツにだった。
「ところで…だ。薫サンっつったっけな。アンタは一体何の目敵があってこんな事してんだ?」
 ちゃんとした会社持ってる社長が妹の学校で偽ホームレスしてる。考えただけでも悲しくないか色んな意味で。
「目的、か」
「ああそうだ。ずっと気になってた」
 薫は少し遠い目をした。少し溜め息をついた後、校舎の隙間に流れる空を見上げる。
「…ここで、この学校で見付けたいものがあるのだ」
「見付けたいもの…?」
「ああ、俺はそれを見届けねばならない。そのために、俺はここに留まる事に決めた。だが未だに見つけることが出来ない」
「…よくわかんねぇ何だよソレって」
「まあ、一度声をかけた責任、お前を最後まで手助けするという目的もあるな」
「俺は手助けされるようなことなんてねえんだけど」
 むしろ、あんたの手助けしてるつもりなんだけど。俺も同じように空を見る。
「それでも、お前の事もきちんと見届けてみたい。そのために力を貸した…だから、もう自分を見捨てるのはやめろ」
「見捨てる?」
 俺は横を向くが、そこにいたはずのホームレスは、いつのまにか音も無くどこかへ消え去っていった。探すのを諦めて、俺はまた流れる雲を見た。
 なあホームレス
 俺は俺を見捨てるのか?



「…おい朝巳」
「あ?」
「俺は今…何故全ての荷物を一身に引き受けているのであろうか…」
「そりゃ、誰かさんのせいで予定より三十分も遅れたからな!クソ、安売り時間逃したぜコノヤロー」
 …はい、ごもっともです。あの後、俺は半分本気で買出しのことを忘れて、危うくすっぽかしそうになった。頭の悪くてヤル気無い上に責任感まで問われることになったらそろそろオシマイじゃないか俺?
 幸い、朝巳は一発殴るアンド荷物全部持たせるだけで勘弁してくれたけど。薫の言葉、思ったより堪えたんだろうか。俺としちゃ、分かったような分からないような、何だか、ちゃんと着たはずの上着が、背中のどこかで引っかかってるような感じだ。
「おーい函部ー、どこまでいってんだーここ曲がるぞ――」
 声かけられてふと我に返る。商店街の中進みすぎてた。全く、俺ってこんなに気にしいな性格だったかよ。
 それに対して、傍らの朝巳の方は、何の気負いも無さそうに真っ直ぐ歩いている。〃お気楽キャラ〃の俺から見ても、コイツの方がずっと、お天気なんじゃねぇか?
 迷わない、馴れ合わない、負けを知らない、周りを気にしない。自分がどう思われようが、嫌われるリスクがあろうが、やると決めたら何だってやらかす。
 そうだよ、どっちかってとコイツの方が自分見捨ててるよな。
 自信家ってワケじゃないなら尚更じゃん。
 そんなこと思いながら歩いていると、朝巳が急に足を止めた。
「何だ?急に」
「いや、アレ」
 指差す先には、商店街から反れる横道。そこを、一人の女子高生が走り抜けて行った。制服はウチのじゃない。何かを手に持って急いでいる。
 だから何、と訊くまでも無く朝巳はそいつ目掛けて走り出した。
「ちょ、えええええええ!?」
 慌てて俺も追い駆ける。俺はここいらの地元民じゃない。はぐれたらヤバイ!
「な、どーしたんだよ!?あの子に何が!?」
 荷物抱えて走りながら、必死にこいて尋ねる。速度を緩めず、朝巳は短く言う。
「財布持ってた」
「は!?」
「そしてあの子は今どこかへ向かっている」
「ええ!?」
「と、いうことは行き先には何かが安売りしている!!」
 そう言ったのを皮切りに、朝巳は一気にぎゅおおおお―――んと速度を上げてそいつに接近した。それに気付いた向こうは驚いて、また走り出す。朝巳は更に速度を上げた。いやいやいやいや恐いって!!間違い無く向こうは俺達のこと追いはぎか何か(古い?)と勘違いしてるだろう。こんなんに追い駆けられたら、逃げ出すのが当然だ。
「朝巳――ッ止まれ――ッ頼むから止まってくれ―――ッ!!」
 だがそんな俺の叫びも虚しく、朝巳はとうとうそいつに追いついた。
「な、ちょっと!!」
 朝巳がその子の肩にポンと触れる。その子はそれにびくって反応して振り向いた。何だか気の小さそうな子だ。全力疾走シーンがあまり似合わない、気弱で地味そうな印象。の、わりに持ってる財布はビーズやらスパンコールで光りまくってるが、朝巳はそのまま話しかけた。
「いや、急にゴメン、もしかしてさ…」
 朝巳がそう言い終わらない内に、そいつはまた、泣きそうな顔で俺達を振り切って走り出した。と、同時に持っていた物も放り出す。
「え!?ちょっ君財布!」
 俺のその言葉にも耳を貸さず、その子は人込みの中を駆けて行き、とうとう見えなくなった。
「…ったく…店の名前聞こうとしただけなのに…」
「手段を選べお前は!」
「にしても変だな」
 朝巳は、持ち主に見捨てられた派手財布を拾い上げる。さっきの子には全く似つかわしくない装飾。呼び止められた時の、あの子の泣きそうな顔が脳裏をよぎる。しばらく間があって、朝巳が言った。
「…とりあえず、どっかの交番にでも放り込んで帰るか」
 俺も頷く。なんとなく、真相が見えた気がした。
 行くか、と朝巳は元来た道を戻ろうとした。俺もそれに続く。
「―おい」
 呼び止められたのは少し歩いた先でだった。
 声の方を向く。そこに立ちはだかっていたのは、さっきの子と同じ制服の女子高生三人だ。抑えられちゃいるが明らかに染色済みの髪。細すぎる眉。短いスカートの下はお世辞にもウツクシいとは言えないガリ足。頭の中でさっきの子とこいつらを見比べる。俺は一瞬でどちらの味方をするか決めた。まあ、だからといって何をするわけでもないけど。どうせ他人の泥沼怨恨騒ぎだ。
 そんな俺の心中など知る由も無い一人が、朝巳の手にあるその財布をみとめた。
「…ふざけたマネしやがって!」
 明らか不機嫌にそう言い捨てると、そいつは朝巳の手からそれをひったくろうとした。だがそこで引き下がる朝巳じゃない。
「あ?何の話だ?」
 伸ばされた手を素早くかわして、わざとらしく財布を掲げる。相手が、今度はもっと不機嫌そうに顔を歪めた。そして、その口をついて出てきたのは、俺達にとって更にとんでもないことだった。
「はあ?ウチからコレ盗っといて何言ってんの!?」
「ええー!?」
 あまりのことに、俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
 ちょっと待てよ!確かにこの財布は今俺達が持ってはいるけど、さっきの子を追いかけたのが逃げてるように見えたかもしれないけど。
「だから返せっつってんだよ!」
「ちょっとお前らこっち来い!」
 構わず奴らはまくしたてる。
「やっぱりとは思ったが、まさかこういう展開になるとはな…」
 朝巳は妙に落ち着いて舌打ちした。困った、と言うよりは面倒だ、と表情が語っている。対する俺は気が気じゃない。
「おいどーすんだよ!ひとまずお前はそれ返せ」
 なるべく聞こえないように言って、俺は向こうに振り向く。
「違いますって~、これはたまたま拾っただけで、今どっかに届けようって言ってたんスよー」
 保身のお愛想笑いは欠かさない。関わりたくない奴にはにっこり笑って受け流す。そのうち消えてくれるだろう。
 ただこの場合、依然と奴らをウザそうに見返す朝巳が問題だ。
 だが、解放されたいのは奴も同じと見えた。
「そ。あんたらの勘違い。ほらよ返す」
 しぶしぶながらも財布を差し出す。やっぱり何だかんだ言ってもこいつは賢い。
 相手は、それだけで済ましてしまうのは物足りないとばかりに朝巳とそ手元を見比べていたが、ひとまずはそちらも手を伸ばす。そして財布に触れるかというその時。
 それは朝巳の手を離れ、軽く宙を舞った。
 一瞬後、女子高生達の背後で無様な落下音が響く。
「…テメェ…!?」
「…つもりだったけど、お前らに素直に渡すのはイヤ」
 低い声でそう言うと、朝巳は更に物凄い目つきになった三人にニヤリと笑ってみせた。
 ―ガラの悪い奴三人を前に少しも怯まず。むしろ逆に威圧するような目。
こいつには恐れすら無いのか。

「何してくれんの!?」
「お前らこそ、せっかくそれを届けてやろうとした俺達を泥棒呼ばわりかよ」
 向こうはただひたすら上から叩きのめそうとするヒステリックな声。
 対する朝巳は、下から鋭いナイフか何かで刺して、そのまま急所までえぐってしまおうとするような声だった。
 騒ぎを聞きつけて人が集まって来る。近所の店員、通りすがりの地元民、 面白半分の観光客。
 居心地が悪い。
 でも当人達はすっかり殺気立っていて、とてもそんなことを言える状況じゃなかった。
 と、その時だった。
「…信明、何してんだ」
 声の方を振り返る。そこにいたのは、人の輪に紛れて俺達のそばまでやってきたリオ先輩だった。先に帰宅していたのか、着ているのは制服の俺達とは違い私服だ。
「先輩!」
 俺が反射的に発した言葉に、中心人物共が反応する。約四名分の異様な眼光に、さしもの先輩も少々驚いたように一瞬肩を浮かせた。
「な…何なんだあいつら?て言うか何があった?」
「いや~…それが…。朝巳があいつらに因縁つけられてー、逆に因縁つけかえしてる?ところです」
「なるほど。なすりつけあってるところか」
「はい。押し付けあってますね。怖いんでどうにかなりませんか?」
「何故私に言う?」
「俺には手に負えそうにありません!」
「おいコラそこ!」
 ひそひそ声で話し合っていると、不意に向こうサイドから声が飛んだ。
「そこで男子二人は何コソコソ話してんだよ!」

 …ピッキ―――――ン

 俺は固まった。そしてギギギ、と首だけ動かして先輩の方を見る。
 先輩もモノクロ調になって固まっている。
 確かにロン毛時代は気づかなかったけど。今のその髪型と黒地のTシャツに紺基調のジャケットを羽織ったGパン姿は、
 どう見たって通りすがりのイケメンだった。
「………信明
 新たな魅力ポイントに思わずトキメイていた俺に、先輩はこちらを向かずやたらドスの利いた声で言った。周囲に漂い始めた黒いオーラに生命の危機を感じて我に返る。と、同時に先輩はゆらりとこちらを振り向いて、俺の左手に下がった方の袋を指差した。
「…それ、ちょっと貸してくれないか」
「え?コレ確か看板用の板ですけど、何を」
「……」
 いいからよこせ、と目が言っていた。
「…すいません」
 とりあえず逆らえる気がしないので、俺は素直にその荷物(木の板計三十枚)を渡した。受け取ると、先輩はこちらを眺める朝巳とボスギャルの前につかつかと歩み寄った。そして板を袋から出して、重ねた状態でドンと地面に置く。その行動の意味を汲み取れず、唖然とする周囲を尻目に少し息を吸い込んで、
 同時に俺は悟る。板計三十枚の命運はとうに尽きていたことを。
「――…はァァッ!!」  バキィィィィッッ!!
 凄まじい気合いと共に振り下ろされた手刀が、板三十枚を一気に叩き割った。
「「「ーッ!?」」」
 さしものギャル勢もこれには驚いたらしい。攻撃の矛先を朝巳から先輩に移すように身構える。でも、先程の破壊拳を目の当たりにしたせいか皆さんどことなくビビっているのが丸わかりだ。
「ったく…この程度でビビんなら最初から大人しくしてりゃいいもんを」
 ここは全て任すのが適切と考えたのか、朝巳は一歩引いて俺の横に立つ。そして見物でもするように腕を組んでそう言った。
「一人じゃ追い払えもしなかったくせに言うなよ」
「じゃあ俺の後ろでヘラヘラ笑って逃げ腰だったお前は何だ?」
 まあ…正論ではあるよな。
 背後の会話も先輩にはもはや聞こえちゃいないだろう。板きれの残骸を前に、先輩はまたゆらりとギャル勢の方に向き直る。
「…別にあんたらをナメてる訳じゃないが、やっぱり女の子に手ェ上げるのは趣味じゃないんでね…」
 …そう言いながらも、確実に何かの波動が出ている気がする。しかも邪悪なのが。少し俯き加減で低く言った先輩だったが、次には顔を上げて明らかに殺気を込めた眼光を敵陣へと放った。
「――でもそちらさんこそあんまりナメたマネすると、この板キレみたくバッキリやっちまうかもしれませんよ?」
 それは…宣戦布告と言うよりは処刑宣告です、先輩。
 その様に一気に縮み上がった不良共は、しばらくはうろたえ打開すべく視線を周囲に泳がせていたが、
「――とっとと消えてくれれば忘れてやってもいいが」
 指の関節を鳴らしながらの一言が決定打となり、三人はもはや捨て台詞も無く、そそくさと人の輪を押しのけて去っていった。

「…ふん、行ったか。まったくバカ兄だけでも手を焼いているのに…」
 …さすが先輩の手に掛かるとあっけないことこの上ない。てかやっぱ薫探してたんだ。そして、唖然とそちらを見る俺達に気付くと、先輩はこっちを振り向いてにっこり笑って、
「じゃ、お前らも気をつけて帰れよ」
 …それはそれは爽やかに去って行った。
「「…はい…」」
 板、どうしよう……


 最近、周囲が変人で埋め尽くされている気がする。
 学校関係者然り、部外者然り。
 おかげで、日曜であるにもかかわらず、少し居眠りをしただけで、昨日の出来事一連がまるでフィルムを巻き戻したように思い出されてしまった。
 疲れてんのか?憑かれてんのか俺?
 けど俺だって忙しいんだ。奴らの幻影に振りまわされている暇は無い。
 昨日出た課題を消化すべく鞄を開けるが、ノーとが見つからない。
 …しまった。どうやら学校に忘れて来たっぽいな。
 諦めようか。けど今までの授業でほとんど寝てる俺は、せめて提出物くらい間に合わせないとヤバイだろ。…幸い、俺の家は学校からそう遠くない。しばらく鞄の中身と睨み合った結果、俺は日曜と言うのに学校に出向くことにした。
 ここのところ本気で平安という物が無い。休日くらいゆっくりさせてくれよぉ。
 だるいことこの上ない気分で、教室へと向かう。と、日曜だったことを思い出した。
「すいませーん、やっぱ教室入るのって鍵とか要りますかね?」
 廊下ですれ違ったスーツ姿の教師に問い掛ける。いや、かなり若かったし見ない顔だから事務員かも。
「いやどうやろなー、俺もようわからんけど開いてへんねやったら、職員室で頼んだ方がええんとちゃうかな」
「そーすか……って、え!?」
 どこかで聞き覚えのある声、口調。…想わず二度見した。
 いや、たしかにいつもと何か違うけど、スーツだけど、眼鏡だけど、地味系茶髪だけど。
「イオリさん!?何やってんだアンタはこんな所で!?」
「うわ――!っ!?待って!ちょっとこんな所で!声でかい!」
 思わず叫んだ俺に、普段と正反対な格好をしたイオリは慌てて突っ込んだ。何でだ。何でこんなとこにまであいつらが出て来るんだ!?
 もはや呪われるとしか思えない状況に眩暈さえ覚える。
「ちょと?函部君落ち着きや!?頼むから騒がず気を確かにー!」
「うるせえアンタが一番騒がしいわ!てか何その格好」
「通りすがりのデキル男や」
 一連の間の抜けたやりとりの後、イオリはやたらとカッコつけて眼鏡をキラ―ン✧と光らせた。確かにその格好はどっかの一流ビジネスマンぽいけどさ。
 てかこの仕草どっかで見たな。んなこたどーでもよくて。
「何しに来たんですか。てかよく入りこんでバレなかったな」
「ソレ狙って日曜に決行したんやんか。いや、カイの奴がな…薫はここにおるはずや言うて」
「カイさんが?」
「そーやねん。何かやたら自信有りげに断言されて、出向かされたんやけど…全く何に勘付いたっちゅーねん」
 そう愚痴るイオリの言葉に少し思索する。俺は思い当たる節があった。

 金曜の放課後。俺がチクりそこねたあの時―――――
「――…あの時か――…!」

 その時、イオリは居なかったけど。カイは俺の態度から即座に見抜いたんだろう。薫について、何か隠していること。
 もうとっくに気付かれてたんだ―――
(要するに悩んだ所で何も変わらなかったって事じゃねーか…)
 何か骨折り損だ…いつもの俺のならありえない失態だ。頭に乗っかった鍋が取れたような感じだが、軽くなりすぎて逆に力が抜けた感じだ。
 けど、何故かソレが清々しかった。敢えて何も考えなかった時よりも、だ。不思議な感覚に俺は少々呆けたように立ち尽くした。
「えーと…もしかして君が何か教えてくれたん?」
 そんな俺を遠慮がちにイオリは覗き込んだ。俺はその感覚から我に返る。そして首をかしげるイオリの方を向いて、

 ぎこちないだろうけど笑って、首を横に振った。

 何でだろう。昨日までより目の前が明るい。
 と、廊下の端の部屋の扉が開いた。生徒指導部だ。別にやましいことが無くても逃げ腰になるのが学生の性。イオリの方はというと、扉の音とほぼ同時に物置の影に隠れる。驚くほど一瞬だなオイ。
 部屋から出てきたのは朝巳だった。
「あの子は…」とイオリも物置から顔を出した。
 どうしたんだろう。教師ウケのいいあいつが呼び出し、しかも日曜に?廊下の中心に立つ俺と目が合う。殺気立っていた眼光が少し和らいだ。
「函部か」
「朝巳…何かあったのか」
 さっきの空気じゃ、何でも無いじゃ済ませない。まさかとは思ったけど、これはマジで呼び出しだろう。朝巳は少し溜め息をつくと、俺のところまで歩いて来て言った。
「昨日の喧嘩のこと、バレたらしい」
 そう言ってまた朝巳は溜め息をついた。普段ならほとんど見せない疲れた表情。結構絞られたみたいだ。
「ちょ、喧嘩って…大げさじゃね?」
 アレは喧嘩と呼べるほどの物でもなかったはずだ。少なくとも先輩が未然に防いだし。それに、何で俺には何も無かった?
「ともかく、俺達が騒ぎの渦中にいたとこ、見た奴がいたんだろうよ。ちょうど下校時刻だったし、知り合いに目撃者がいてもおかしくねーよ」
「…チクられったってことか!?」
 俺は思わず声を大きくしてしまった。
 確かに、朝巳は校内の有名人だ。でも少なくとも人気者じゃなかったのか。俺のそんな言葉にも、朝巳は平然と答える。
「名前が通ってる分、俺のことよく知らなくても、ウザいとか思ってる奴はワンサカいるだろうさ」
 人に恨まれることなら数え切れないほどしてるしぃー、とおどけて大げさにくるりと回って見せる。そしてそのまま俺達を通りすぎて、別の棟へと歩き出した。
「お、おいちょっと待てよ!」
 俺はその前方に回り込もうと駆ける。大人しく様子を見ていたイオリが、少し驚いたように道をあけた。
「ちゃんと本当のことは言ったのかよ!?」
「ああ言ったさ。ま、結果は変わらずだがな。騒ぎは起こすなって」
「んな理不尽だろ!いいのかよお前は」
「話聞かなかった指導部の先公か?」
「まあそいつらもあるけど…色々だ。結局認めちまったことになるぞ!?」
「あはははそーだねぇ。でもどの道俺が騒ぎを起こしたって話は今日中にもケータイ伝いで広まるはずだぜ。明日の皆の反応が楽しみだな」
 朝巳は平然と笑う。何も思ってないかのように。おいおいちょっと待てよ。こいつはこんなあっさりと屈する奴だったか。
 そのバカ高いプライドを傷つけようもんなら、誰であろうと戦いを挑む。最初誤解した俺や、高飛車なギャルや、話に聞く中三の時の理事長だろうが。手段を選ばず叩きのめすような奴なのに。

「…お前らしくないだろ!」
 口をついて出た言葉に、立ち去ろうとしていた朝巳が振り向いた。その眼光は今までに無い怒りの色だ。
 それをマトモに突き刺され、思わず俺は焦る。何だよ。そんなにお前が怒るような事言ったのかよ!
「…指導部に言われたよ。〃優等生で通ってるお前がどうして〃ってな」
 そう言いながら俺を見る朝巳の目は、嘲りさえ浮かんでいた。気圧されて、言葉を続けることができない。代わりに朝巳が続ける。
「けどそれはあいつらが勝手にそう思ってる、てか思いたいだけだろう?テストの点良いから?自治活動頑張ってるから?それとも教師共のパシリ確実にこなすからか?はっ、俺の素顔がどんななのかも知らないくせによく言えるぜ」
 まるで今まで溜め込んでいたように、低く、激しく、それは吐き出されていく。
「結局はあいつらも昨日の不良共も一緒だ。自分の見解だけで好きな事を言い散らす。ああ違うか?何も違いもねぇだろう
 …お前等が今まで騙されてきただけだ。誰もが俺の表面しか見ない。人それぞれ胸クソの悪い勘違いで俺を見てる。
 そんな奴らが俺のこと決めつけたように語るんじゃねえ!」

 最後に朝巳はそう叩きつけた。

 俺は打ちのめされたような気がした。朝巳は、今みたい本気で怒りを顕にしたのは稀だろう。一気にそうそう吐き捨てた後、我に返り、決まりが悪そうに俺から目を逸らした。
 俺もその場に立ち尽くす。しばらくして朝巳は言った。
「…怒鳴って悪かった。…じゃあな」
 そして、今度は俺達の前を通り、反対の出口側へと歩き出す。少々縮こまったイオリが、また道を空け、後姿を見送った
。  
  〃俺はピエロだからな〃
 …そうか。そういう事だったのか。

 アイツは誰を相手にしてもオーラを同調させる。すぐに馴染む。でもそれは裏を返せば、相手の都合の良いよう理解されかねないってことだ。
 その上でアイツは立ち回る。わざと自分の正体がバレないよう、掴めない行動をとる。翻弄される愚民を笑う。全てを笑いものにする。
  ピエロだ。

「…函部君?」
 一部始終をじっと見ていたイオリが心配そうに俺を呼んだ。と分かるまで五秒くらいかかった。
「あー…えと…」
 そっちを向きながらも、どう応えていいか分からない。俺はしばらくその場で言葉を捜した。
「…どうすりゃいいんでしょうかね…」
 結局、出てきた言葉はこれだけだった。薄々感づいてはいた。あいつが何かしらを抱えてる事。良く解からないけど、分かっていた。

 あいつにすれば、俺の言葉はきっと侮辱だ。
 自然と出た親切を、点数稼ぎといったような。
 実際強い奴に、「強がってる」と言ったような。
 自分も似た感情は持ってるからと思ってたのに。
 なのに

「…俺はバカだ」
 でしゃばりだ。知ったかぶりだ。何様だ。
 どうやら俺はバカの振りをしているうちに本物のバカになっちまったらしい。

「でもどこがあかんか解かってんねやろ」

 遠くの方から声がした。…いや、そんな遠くじゃない。
 イオリだ。
 さっき俺達の衝突にうろたえていたとは思えない、真っ直ぐな瞳だ。
 否定するものは何も無い。俺は大人しく頷いた。
「なら、そんな気に病む事やないよ」
 そんな俺を見て、イオリは明るく笑った。おい、ちょっと待てよ。
「気に病むって事は無いってなあ…」
 カンタンそうに言わないでくれよ。なんかその様に腹が立ってきた。
「じゃあアンタはどうしろって言うんだ。俺の立場に立った時にこうして笑ってられるんですか」
 俺は噛み付くように言う。八つ当りかと問われても否定はできない。気分は最低だ。
 最高になるのは楽じゃない。でも最低にはこんな簡単になれるんだ。でもイオリは言った。
「できるよ」
 迷いの無い笑顔で。
「まあ相手にもよるけど…自分が次どうせなあかんかはもう解かってるから。解からん時はどうしようもないからめっちゃ落ち込むけど。
 でも君は解かってるんやろ?」
 そして俺を指差した。
「これから事態がどう転がるかは君次第や」
 俺次第。
 確かに何をすればいいかは解かるよ。朝巳に直接謝ればいいだけだ。それはわかってるさ。
 遠くで足音が近付いた。教師の誰かだろう。イオリが反応する。
「やべ、俺もそんなに長居できへんわ。ほなな函部君!」
 イオリは足音から逃げるように去っていく。俺はそれを静かに見送った。あんたは大したモンだよ、チャラ男探偵。確かに解決法は見えてる。
 けど俺はそれを実行できるほどの勇気は無い。でも、俺が出来ないそれをあんたはあっさりやってのけるんだろう。
 俺が捨ててしまったものを、イオリは未だに大切に持っていたんだ。
(ホームレスに聞いたらどう答えるだろう)
 探そうと足を踏み出して、やめた。同じような事を言うに決まってる。
 どのみち、事を動かすのは俺自身だ。
 視線を上げ、しっかり前を見据え、俺は校門を出た。

 踏み込んでみろ、これ以上無くすものがあるか。
 聞こえないけれど、遠くでホームレスの声がする。



 そして、今日も一日が始まる。
 何だか、妙に清々しい朝だ。そりゃ、開き直って夜十時間も寝たんだからな。朝に弱いっていうのに、そのせいか頭だけはすっきりしている。
 靴を履き替えると、俺は自教室じゃなく、向かいの校舎にあるあいつの教室へ向かった。
 向かってどうなるのかは俺にも分からない。
「少年よ」
 その渡り廊下で聞こえたのはアイツの声だった。出たなホームレス。
「何だ?これから大勝負なんだ」
「昨日のケリをつける気か?」
 まったく、それまで知ってたのかよ。ため息をつきながらも、もうそんなに驚きはしなかった。きっと昨日、どこかに隠れて一部始終を見てたんだろう。こいつなら有り得なくない。
 柱の影から姿を少し見せた薫は言う。
「他人に頼らず自ら意を決したのは大変結構だが、勝算はあるのか?俺には、お前が何か考えを持って挑もうとしている様には見えないが」
 珍しいな。あいつがいつもとは逆に俺にストップかけるなんて。
「無謀なアドリブは、失敗した時取り返しのつかない程後悔する事もあるぞ。…それでも行くか?」
「行きます」
 自身満万に言い切った。溢れんばかりの自信に見えるが、実はそうじゃない。生意気とノリと勢い、そして開き直りをかき混ぜた、カイもびっくりのエセインスタントおでんだ。今思えば、朝巳が日頃漂わせていたのはコレだったのかもしれない。
 揺るがない俺を、薫はしばらくじっと見つめていた。
 あ、ふっとその目元に笑みが浮かんだ。
「…成長したな」
 何だか妙に老けたその言い方に、俺は思わず吹き出した。でもそうだ。こいつと関わりがあったからこそ、俺はここまで辿り着けた。
「試すような真似をしてすまなかったな。ここまで来たなら、もう何も言う事はない」
 薫は柱から離れ、校舎の影へと歩む。そして振り向いて笑った。
「行って来い。天気人間」
 ああ、行ってやるさ。ちなみに今の天気は追い風だ。
「あんたも、探し物が見つかるようにな」
 そう言って、俺はホームレスから背を向ける。
 踏み出すのは空の下だ。無くすものなんて無い。


 やっぱり、喧嘩のことは多くの生徒に伝わったらしい。教室の周辺は、生徒達でごった返していた。人々をかき分け、扉の前に立つ。
 朝巳は中に居るはずだ。自分のスキャンダルを囁かれる周りの中で。
 どんな表情をしてるだろう。もし少しでも暗い顔とか作り笑いとかしてみろ。その場で必殺土下座を決めてやる。
 意を決して、俺は勢い良く扉を開けた。
 と、
「函部キタ――――――――!!」

 巻き上がったのは歓声、声援、雄たけび、なんじゃこりゃ。
 え?はい?
 まるで勇者か何かを迎え入れるような皆の歓声に、訳の分からないまま、とりあえず型通りに笑って手を振ってみた。けど、
 …なななな、何だコレは!?
 驚く間にも、生徒達は男女問わず俺に集まってきた。
「おいおい函部!お前あの時朝巳のそばにいたんだろう!?」
「どうだった!?どうやって不良を撃退した朝巳は!?」
「あいつの武勇伝を間近で目撃しやがってこのやろう」
 お――――い待て――――――!?
 これは何だ!?どーゆー事だ!?混乱しながらも俺は教室の中央を見やる。そこには、いつもと同じ悪ガキの笑みを浮かべた朝巳が級友に囲まれてふんぞり返っていた。そして俺に気付き、言う。
「あーあー、気の毒にねぇ函部ク~ン。あの時、俺の傍で全て見てたばっかりに~…」
 その言葉と、いかにもユカイそーな表情を見て、俺は一瞬で何が起こったかを理解した。
「おのれ…」
 …全く…人が…あれほど慣れん悩みを抱えたっちゅーのに……!!
「あ―――ざみイイィィィィ―――――ッ!!」
 俺の怒号は始業ベルと見事に重なり、週一番学園に不響和音が響き渡った。…うわ、ロッテンマイヤー!?


「…ああそう…〃朝巳理奈、からんで来た不良を撃退〃か…」
 どこの新聞記事だ。それは。放課後、事の顛末を知りたがる皆の衆からやっと開放され、俺は力無く呟いた。
「しっかしさすがお前だな。まさか武勇伝にしちまうとは」
 うん、さすがとしか言いようが無い。こういうことは、俺がいくら頑張っても一生真似できねーだろう。俺は再びベンチで燃え尽きポーズをとった。
「いやさ、俺もまさかと思ったよ」
 朝巳は横で、昼にとっておいた例の揚げパンを食っている。いつもと変わりない。拍子抜けしながらも、どこか俺は安心していた。
 結局、俺の努力は全て吹っ飛んだわけだけど、かえってそれでふっきれた。最後の一口を飲み込んで、朝巳は続けた。
「どうやらリオ先輩やら藺田やらが情報操作をしてたらしくてな」
「情報操作!?」
「そ。まずリオ先輩が、自分がやった事なのに俺のせいにするのはマズイって言って提案して、そこで藺田ができる範囲で話変えて流したらしい。麻野が教えてくれた」
 ヘえ麻野が、ちょっとは器用立ち回るようになったじゃん。
 俺は空を見上げた。そうだ。本題に入らなきゃ。

「あと、…昨日はスマ「あ――気にすんな」
 てめ、人が真面目に謝ろうとしたのを。朝巳は俺に笑いかけた。
「昔の事グダグダ言ってもしょーがねぇだろ?」
 …まあ今回はそれでよしとしよう。本人がいいんなら問題無いさ。
 俺も、色々と救われるし。ふと俺は聞いてみた。
「そういやさ、お前ってなんでピエロやってんだ」
 人によってまちまちな印象。掴めない実像。なのに存在感。
 朝巳はちょっと考えてから、こう言った。
「あ――…ちゃんと正体見破れる奴判別する為?」
「…正体?」
「ああ、例えばさ。初めて俺らが会ったラブレターの件」
 そう言って、朝巳も空を見上げる。
「…俺、アレ実は気付いてたんだ。でも、なんかハラ立った。だって〃好きです〃とか言っても俺のどこが?って。顔か?姿か?そいつも結局上辺しか俺を見てないと思ったんだよ」
「それで襲撃か」
「旧知の奴なら真面目に受け応えしようと思ったよ?でも現れたのが見ず知らずの編入生だったもんだからな」
「だから俺じゃねぇっつーの」
 そう言ってふと思い返す。俺達が出会って、もうすぐ一週間が経とうとしていた。


その後、少々エピローグめいた事が起こった。
「おったで―――!」
 裏の方から聞こえてきたのはイオリの声だ。何事かと俺達は駆けつけると、そこではイオリと薫が斬り結んでいた。
「何やってんだお前ら!」
 ここ校内だぞ!堂々と侵入してバトルしてんじゃねぇよ!
「ああ少年か!すまん、今手が離せん!」
「はーこべくーん!この通りビンゴやで――!」
 そう言いながら、イオリは逃げようとする薫にワイヤーみたいなのを飛ばす。が、薫もさるもので、それを木刀で弾き返した。だが、その足元に針が勢い良く突き刺さる。カイだ。
「ええ加減大人しく帰ってもらうで。お前がおらん間俺がどれだけ苦労したと思てんねん!」
「うお!?カイお前まで!?」
「でかしたカイ!くーらえ――っっ!!」
 カイの攻撃にバランスを崩した薫に向かい、イオリはワイヤーをしならせる。雷みたいな光の軌跡が見えた。そしてそれをそのまま振り下ろ――
「隙ありィィッ!」
「うぐあっっ!?」
 すよりも速く、薫はイオリの脇腹に木刀の一閃をくらわせていた。
    イオリは倒れた
「イオリさん!」
「案ずるな、みね打ちだ」
「み…みねうちやなくてたまるか…」
「あ、復活した」
「早いな!」
「くそ、埒があかんな…」
 俺と朝巳が見守る中、カイは薫を睨んで舌打ちする。確かに、あんな格好はしているけど、薫は妙に強かった。
「悪いが、俺はまだここを離れる訳にはいかない。ここで…リオは転入後無事に適応できているか、確かめねばならんのだぁぁ―――!!」
 お前ソレが目的だったのかァァァァ!!
 「と、いう訳で、さらばだ!」
 薫は校内の奥へと駆け出した。イオリ達は深追いはできない。
 と、その時
   ざりっ…
 その目の前に立ちはだかった人物。先輩だった。
「リ…リオ、お前…!」
 驚く薫に、先輩は悪のオーラを出してにじり寄る。
「…何やってんだバカ兄」
「い、いやこれは元はといえば…」
 薫は明らかに落ち着きを無くす。そこで先輩は拳に力をこめて、

「その妙な格好で学校の中何してんだと聞いているんだバカ兄!!」


 ズガアアアアン!
「ウボアああああああ――――――!」
 先輩の一撃がとどめとなり、薫はその場で断末魔を上げ、倒れた。
「く…成長したなリオ…お前に素でウボアと言わされる日が来るとは…無念…!」
               バタッ
「…終わった…」
 やけに清々しい顔で、先輩は言った。
 

というホームレス捕獲劇を報告する事で、今回はけじめをつけようと思う。立ち会ったのは、俺と朝巳だ。
 薫はそのまま連れ帰られた。きっと後に、彼らにこってりしぼられることだろう。
 ああ、終わったよ。
 こうして、俺の周りに、やっと再び平和な日常が訪れた。
 特に何の事件も起こらない、何の変哲も無い日常。
 全てが始める前と何も変わらない。
 いや、少しだけ変わった事がある。
 表面上では、何も分からないかもしれないけど、確かに、俺の中で何かが変わったんだ。俺は、もう一度、校舎の間に流れる空を見上げた。


 そういえば、あの時一言も話せずに別れてしまった薫はどうしているだろう。風の噂では、しっかり社長の仕事はしてるって聞いたけどな。
 そのうち、手紙でも書いてみようかと思う。

                                fin
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